続・ iPodの対極とコンピュータ連携への期待  (2008年02月26日)

最近の欧米でのデジタル音楽の流れは、iPodで出来上がった音楽を聞く仕組みを、家庭のリスニングルームにあるハイエンドオーディオにもあてはめることになってきているようだ。
 これらの音楽のデジタル化は、機器のコンピュータ・アプライアンス化の流れでもあり、さまざまなソフトウェアがオーディオ機器やPC周辺にも数多く発生していて、先端のものはオープンソース化まで進展してきている。

先ず、iPodの仕組みとはどんなものかを考えてみよう。
 一つは「聴く場所」を限定しないこと。これはもともとソニーのウォークマンが始めたことだ。
 二つ目は「ディスクメディア回転ロスの回避」による高音質化だ。ハードディスクやメモリーで解決している。
 三つ目は「CDリッピング」であり、CDのたくさんのパッケージをiPodのハードディスクやメモリーにデータファイルとして収容してしまうことだ。
 四つ目は「大容量収容」で、ファイル圧縮の程度によって収容できるCD枚数が増減するが、音質とのトレードオフの関係となる。
 五つ目は「音楽配信」で、これもファイル圧縮と関係が深い。ダウンロード時間を短縮するにはファイル容量が少ない方が良いが、音質とトレードオフとなる。
 ざっと洗い出すとこんなところがiPodが育て上げてきた仕組みと言える。

この仕組みのうち、「聴く場所」だけはリスニングルームに限定して、あとの仕組みを音楽ファンやオーディオマニアに活かすスタイルはどうなるのだろうか?
 それは、「ネットワーク・プレーヤー」と「NAS(Network Attached Storage)」の組合せを、無線LANで接続する仕組みになるように思う。
 ネットワーク・プレーヤーにより、「ディスクメディア回転ロスの回避」が実現でき、NASによって高音質ファイルの「大容量収容」が可能になる。欧米で は「CDリッピング」可能なNASがでてきたり、高音質「音楽配信」をNASにダウンロードすることも行われ始めてきた。

2007 年10月、英国の名門オーディオ・メーカーLINNが発表したDS(Digital Source)シリーズが、新しいオーディオの仕組みとしてこのスタイルを提唱した。LINN Recordsのサイトからは、24bit96KHzのStudio Masterグレードの音源がダウンロードできる。他の部屋のPCでこのダウンロードを行いファイルをNASに蓄えて、PCの影も形もないリスニングルー ムのネットワークプレーヤーで再生し高音質の音楽を聴く。
 日本のオンキョーでも、同様の24bit96KHzの高音質ダウンロードサイトe-onkyoを運営しているが、DRM(Digital Lights Management)でガードさせて、マイクロソフトのWMAフォーマットに限定されておりPCが必要となって不自由である。LINN RecordsではFLAC(Free Lossless Audio Codec)フォーマットもサポートされており、最近主流のDRM-freeにもなっている。
 ただ、MP3系の圧縮音楽配信と異なり、これらのファイルは極端に大容量となる。アルバム1枚が60~70分あると、そのディスク容量は2.5GB程度も必要になり、ダウンロード時間が数時間におよび大きな問題でもある。
 さらに、このLINNのネットワーク・プレーヤーはそれ単体で290万円、安い方でも90万円ととても高価なので、簡単には試すことはできない。

いろいろと調べてみると、面白い製品群が世界には結構あった。
 先ずは、「CDリッピング」機能を搭載したNASであるRipfactory社のripserverだ。LinuxOSをベースにミラーリング (RAID1)でデータを保全し、500GBと1TBの2モデルは魅力的だ。オートリッピング機能で、CDの音楽データをFLACやMP3でどんどん吸い 上げることができる。前述のLINNのDSシリーズなどネットワーク・プレーヤーの音源供給元として期待が大きい商品と言える。


【RipFactory社のWebページ】

 次に注目すべきは、LINNに比べれば廉価だが、一般のピュア・オーディオ機器としてはスペック、価格ともにリーズナブルなネットワーク・プレーヤーSlimDevices社のtransporterである。
 このプレーヤーは、とにかく面白い。オーディオ機器としてのスペックも、DACに旭化成エレクトロニクスのAK4396を搭載、デジタル入出力はともに COAX、optical、BNC、AES/EBUのフル装備、さらにはワードクロック入力の端子まで用意されている本格派だ。デジタル入力を受け単品 DACとして使用することもできる。画面にはVUメーター表示などがあり、オーディオファンの心をくすぐる。
 早速、買ってしまって、その面白さを楽しんでいるところであるが、エージングが必要なのか、今のところ、ちょっとコンピュータくさい音を出しているのが残念だ。
 PCやNASにインストールされたSlim Serverというソフトウェアが音楽データを送信するが、そのフォーマットは、圧縮、非圧縮、可逆圧縮などさまざまなものに対応する。 24bit96KHzのものまで無線LANを経由して再生できる。またファームウエアやサーバーソフトのバージョンアップで更なるオーバーサンプリングに も対応していくことであろう。これらのソフトウェアはコミュニティが形成されていて、オープンソースとして提供されている。


【Slim Devices社のtransporter】

 また、インターネット・ラジオのチップが入っており、PCを起動させなくても世界中の放送局からの音楽を楽しむことができるのも嬉しい。NASのデータもNASが立上っていればPCの起動は不要である。
 これらの機器は、ほとんどがLinuxのアプライアンスであり、そのソフトウェアがオープンソースとして公開され始めている。iPodの対極となる高音 質なデジタル音楽の世界は、我々のビジネスエリアであるオープンソースと確実に重なってきているので、今後も注目していきたいと考えている。

 


【Slim Devices社のオープンソース・コミュニティのWebページ】

最後に、音楽ファンやオーディオマニアにとっては、普段持ち歩いているiPodを家庭のドックにつないで音出しをするより、NASに蓄えた高音質のデータをiPodに転送して持ち歩く方が、理に叶っていると考えるが、いかがだろうか?

南米という「未知」に・・・  (2007年11月13日)

経済発展の著しい国々としてBRICsが注目されている。
 日本というアジア地域にいると、すぐに中国とインドを思いつき、ITの発展においてもオフショア開発の拠点としても、今や無視できない存在となっている。
 最近ではロシアもこのIT発展国の対象に含まれることもあるが、残りのブラジルについては、BRICsの最初のBにもかかわらず、我々日本人はほとんど知らないのではないか。

オープンソースの普及度合を示す一つの指標として、Linuxカウンターというサイトがあり、登録されたLinuxユーザーの数を国ごとに集計している。
 ここで大いに目立つのが、このブラジルである。
 1位米国、2位ドイツに続いて堂々の3位の地位を占めている。サンプル数が適当でないかも知れないが、ロシアやインドの3倍以上であり、中国の何と10倍以上の人たちがLinuxユーザーなのである。

【出典:http://counter.li.org/reports/short.php?orderby=users#table 

もう7~8年前になるだろうか、オフショア開発がまだこれからという時期にブラジルでの開発を進めてくれた人がいたのを思い出す。ご存じの通り、ブラ ジルは日本からの移民が多く日本語を英語のように自然に受入れており、距離的な不利はあるがオープンソースの普及も米国並みで、これから大きく広がる可能性があるというのだ。「確かに」と当時は思ったがアクションには至らなかった。
 このブラジル以外にも、ヨーロッパの国々と肩を並べてたくさんの南米の国が上位に名を連ねている。19位にチリ、20位にアルゼンチン、23位にベネズエラといった具合だ。因みに、中国は37位で日本は58位になっている。
 もともとヨーロッパの植民地だったということからか、そのビジネスやカルチャーはヨーロッパに似ているのだろう。サッカーが盛んなことは有名だが、クラシック音楽も盛んのようだ。

【ドゥダメルへの賛辞】


最近、ベネズエラという国にも興味を持ち始めた。人口はわずか25百万人程度だが、100を超えるユース・オーケストラがあり、50を超えるチルドレン ズ・オーケストラがあるとのことである。ベネズエラ政府の呼掛けもあり、銃を持つより楽器を持った方が気持ちがいいということで、貧困のストリートにたむろする若者や子供たちにクラシック音楽が普及していったようだ。
 この事実を知ったのは、最近買ったCDの説明書から得た情報である。グスタボ・ドゥダメルという指揮者とシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オ ブ・ベネズエラの演奏によるベートーベンの交響曲である。昨年後半に若干話題にはなっていたが、ベネズエラという国のしかもユース・オーケストラというこ ともあり、あまり気にしていなかったが、先日、このCDに張られたシールに、サイモン・ラトル、クラウディオ・アバード、ダニエル・バレンボイムという現 代最高の指揮者たちの推薦コメントを発見し、慌てて買って聴いてみた次第である。かなりインパクトのある演奏であった。
 このベネズエラのLinux利用者数を人口に対する比率の順位に直すと、58位で61位のブラジルを越す。ここでも日本は157位で中国は人口が多いこともあり192位になってしまう。

我々日本人も、中国やインドにばかり注目せずに、地球の裏側で日本とも関係が深く、ヨーロッパのカルチャーにも近い南米の国々と、いろいろクリエイティブな仕事へのチャレンジをしてみたいものである。

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