Web2.0の次はWeb3.0なのか? 私は違うような気がする。
Web2.0は技術そのもののことではなく概念だが、Webという技術を考えると、次のビジネスでの活用の中心は、Webの仕組みではないものがインターネットの中心となる可能性がある。
それは、コンピュータ処理形態の変化とリアル社会のネット反映の二つの面から考えると、「P2P(ピアトゥピア)」がポストWeb(2.0)の技術として注目されるのではないか。
Webの情報処理形態としての本質は、中央への「集中」なので、ブラウザという端末ソフトを通じて個々人の情報(データ)や処理もサーバーなど中央のコンピュータに集まる。
コンピュータのビジネス利用は、メインフレームによる中央での処理から始まり、分散処理としてミニコン活用などがあり、PC-LANを中心とした分散処 理であるクライアント・サーバーへと発展した。その後ネットワークの発達は外部ともブロードバンドで繋がりインターネット時代を形成して、インターネット のアプリケーションとしての集中処理であるWebが広がり、時代は「集中」と「分散」を繰り返してきたのである。今度は「分散」が注目されることが予想さ れる。
また、情報処理の背景としては、ネット社会での個人情報取扱いについて問題が顕在化してきている。バーチャルなネット社会とは言え、ベースとすべきはリアルな現実社会のルールだと思う。
個人の情報としては、大まかに「一般に公開するもの」、買い物などでの必要情報を「特定の人やグループに知らせるもの」、「個人のみが知るもの」に分けることができる。後ろの2つは、どこかに集中した場合には、その管理者および周辺から漏洩する危険がある。 したがって、Webのような情報集中の仕組みの中に、個人情報の管理が委ねられていくことはリアルな社会との違和感が生じてくる。
具体的には、リアルな社会では、個人は自分の責任において、いろいろな自己情報を相手に必要に応じ知らせたりしている。ネット社会の場合は、これと同様 のことがサーバーと言う集中処理の中心である他人に保管されている。自己のコンピュータまたは携帯電話などのモバイル機器の中に保存して判断するのが自然 ではないだろうか。
データを集中することで、まとめて処理ができる便利さの追求があるが、不便であってもそれぞれの人と人が話して決めることも大事なプロセスだったりす る。各個人の代替となるコンピュータ(携帯電話など)が連絡をとりあって情報のやりとりを決めていくのが、本質的には正しいと思う。
これと近い環境に実名でネット社会を構成するSNSがある。但し、このSNSもWebとして稼働しているため、サーバーに情報は集められ一定のルールで他人に開示が行われることになる。
この二つの流れから考えられるのが、P2Pと言う仕組みと技術である。
P2PというとWinnyでダーティ・イメージもあるが、SkypeもP2P技術である。
SNSについても、本来はWebではなくP2Pの仕組みの上の方が、本質的にはフィットするはずである。
単なるファイル転送や画像のダウンロードだけではなく、グループウェアなどをP2Pアプリケーションとして開発している会社も現われ始めた。
大規模サーバーを必要としないメリットもある。
Webにおいて、ストレージやCPUなどのリソース消費は急拡大しており、その対応として仮想化技術などが進展してきているが、大規模サーバーを不要としてしまえば、サーバー関係でのコストは大幅に抑えられる。
アプリケーションの内容によっては、このサーバー不要のコスト削減を狙って「エンタープライズP2P」なども考えられるかも知れない。
アプリケーションの中身は、始めはWebとあまり差がないものとなるだろうが、その内にP2P技術がこなれてくれば、P2P独自のアプリケーションなどが考えられ、次のネットビジネスの発想に繋がっていく可能性も高く期待していきたい。
オープンソース「ビジネス」 (2006年12月21日)
「オープンソース(・ソフトウェア)」という名前が初めて使われたのは1998年のことである。
それまでは、LinuxもApacheもフリーソフトウェアという言葉で語られており、日経コンピュータや日経コミュニケーションの特集でも「フリーソ フト」という言葉であった。そして、そろそろ基幹系も含めた企業の情報システム全体で使えば情報化投資が削減できるのではないかとの期待や、これらのフ リーソフトウェア自体をビジネスの対象として捉える風潮から、新しい言葉として「オープンソース(・ソフトウェア)」が生まれた。
私が前職であるテンアートニ(現サイオステクノロジー)を、大塚商会の支援を得て立上げたのが1997年であり、会社のキャッチフレーズは「JavaとLinuxによるSI企業」であったが、このころは、オープンソースという言葉は存在していなかった。
設立当時は、SlackWareというLinuxディストリビューションをベースに、アプレットしかなかったJavaで業務アプリケーションを構築する というトライをしていた。このSlackWareをCDに焼いて売っていたのが、後にTurboLinuxディストリビューションを開発し、日本のRed Hatを目指したクリフ・ミラー氏(現マウンテンビューデータ社長)であった。また、Javaを主業にするということから、テンアートニ設立の記事を見 て、すぐに取材に飛び込んできたのが、日経Javaレビュー編集長であった星 暁雄氏(現コモンズ・メディア社長)であった。
考えてみれば、オープンソース・ビジネスの創世期は「ワクワクする時代」であった。
マイクロソフト支配への有力な対抗手段、Web環境ではサン・マイクロシステムズへの価格対抗、IBMやOracleという大手がLinux支持に回 り、それにJavaのサン・マイクロシステムズもマイクロソフトと裁判で係争中と、まさにこれから何かが起きるという活気に満ちあふれていた。ライセンス の問題や旧来のフリーソフトウェア側との調整、コミュニティの急激な広がりなど様々な流れがおきた。
現在は、オープンソースの技術もビジネスも、一段落という安定期に入っている。Red HatによるLinuxサーバーの大規模な企業導入も常識化し、ネット企業のインフラとしてのオープンソース活用も当たり前、何か時代を変えるような仕組みも少ないように感じる。
大手SI企業も次々とオープンソース・ビジネスへの参入を表明している。ユーザーからみれば大手の方が安心との判断もあり、豊富な資金から適度に投入すれば、オープンソース事業は進められ、ビジネスの拡大につながるとの発想からだ。
だが、この傾向は初代ネットバブル時代に似ている。
大手がネット事業に参入したころは、これからはネットの時代で、そこには現在の経済価値を上回る市場への期待があった。ところが、まだ当時のネット市場は未成熟で、思った通りの収益を稼ぎ出すことはできず、撤退したところが多かった。
ネットバブルもこうして大企業の参入と撤退を経験し、生き残ったベンチャー企業がその新市場の覇者となって一般化してから拡大したネット市場を掌中にしたのである。
オープンソースの事業環境も、中央省庁や自治体が積極的に旗を振り、民間を含めたユーザー企業が、オープンソースを当たり前に使い始めたので、大手SI 企業は案件を獲得するためにオープンソース事業参入を表明するが、その市場規模は、もともと無償や廉価を前提としていて従来の情報システムほど売上も収益 も見込めない。
オフィスや管理部門など間接費用となる経費が大きい大企業では、これを支えるだけの収益が出せるかが問題となり、やがて撤退せざるをえない状況を迎える可能性が高い。
ネット・ビジネス同様、ユーザーの中に入り込んでしまっているため、現実的なニーズは引続き存在する。但し、すべてがオープンソースなどは希で、商用(プロプライエタリィ)ソフトウェアとの共存が標準的なユーザーの形態となる。
この市場を確実に捉え、大きく育てていくことが重要である。
これからのオープンソース・ビジネスは安定期に入り、近い将来の市場拡大を信じての「生き残りの時代」かも知れない。